耳鼻咽喉科 アレルギー科 清水おかべクリニック 平成16年10月1日開設
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清水おかべクリニック
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タミフル問題をどう考えるか
今年は暖冬だった為か、インフルエンザの流行が例年より遅れ、3月も後半になってようやくピークを迎えました。4月の今になっても散発的にインフルエンザの患者さんが出ている状況です。

この春、「抗インフルエンザ薬『タミフル』を服用した10代の未成年者で、異常行動を来たした人がいて、ベランダから飛び降りて死亡するケースが複数あった」という話題がマスコミで大きく報道されました。
「これは薬害ではないのか?」と問題視する声が高まったのを受け、厚生労働省が当面10代の未成年にはタミフルを使用しないよう通達を出しました。しかし、「これでも不十分、タミフルという薬自体使用の認可を取り消すべき」と主張する人まで現れる、という事態にまで発展してきています。

この件を皆さんはどうお考えでしょうか。


インフルエンザを初めとして、風邪症候群など高熱を伴う疾患で、患児が異常な行動・言動を示す場合がある、という事は昔から知られています。
風邪をひいた子供がうわごとを言ったり、幻聴・幻覚を訴えたり、玄関から飛び出そうとしたりといった行動は、タミフルの登場以前から希に見られた現象なのです。

こういった事実は、以前はあまり社会問題になっていませんでした。
最近になって初めて、タミフルを絡めてインフルエンザ患者の異常行動が注目され、問題視されるようになった訳です。
その理由として、以下のような背景があるのでは、と私は想像しています。

1.まず現在に至るまで、「風邪をひいた子供が異常行動を示した」という現象を組織的に報告し集計する、というシステムが存在せず、実態が解っていなかった事。
近年タミフルがよく使われるようになって、タミフルを服用した子供に関しては異常行動を起こした場合に、「薬が関わっているかも」という事で事象の報告が成されるようになったので、社会問題化したという側面があると思います。
2.以前は子供が病気になった場合、母親ないし祖父母が付きっきりで看病する場合が多かったが、現在の核家族化・女性の社会進出に伴いそういった割合が減少した。その為患児に突発的な事態が生じた時に、家族が対応する事が難しくなり事故が増えた。
3.以前よりも高層マンションなど高所に住む人が増えた。その為子供が飛び出した時に事故に繋がりやすくなった。
4.物事に不利な側面があると、その原因をすぐ「他人」に転嫁しようとする社会風潮が広がった。
インフルエンザなどの病気による問題であれば、相手が「自然災害」である以上、他人の責任を追及する事は出来ません。
しかし、タミフルという人工物による問題だという事になれば、その向こうに製造者・使用を認可した人・そして医療者といった人間がいる訳ですから、責任を「他人」に押しつけられる可能性が出て来る・・・
ちょっと穿ちすぎでしょうか?


タミフルと異常行動の因果関係は、現時点ではまだ「不明である」としか言いようがありません。
しかし、タミフルを飲んでいてこの様な症状が出たから、と言ってすぐにタミフルのせいにするというのは、あまりにも短絡的です。前述のように風邪症候群の症状の一つとして異常行動が出る事が元々あるのですから。

この問題を伝えるニュースが新聞・テレビ・ネット記事で流された時のタイトルは、明らかにタミフルが異常行動を引き起こしたかのように受け取れる物が多くありました。マスコミのミスリードと言えるでしょう。報道は客観的かつ中立であるべきですが、彼らの報道姿勢は記者の主観が入りすぎで客観性に欠け、要はセンセーショナルで話題性が高ければ良い、恰好のイジメ相手が見つかった、といった感じでした。

医学が進歩してきたのは、我々人類の文明が発展してきたのは、物事を冷静に分析・判断していくという科学的な視点を持ち得たからです。今回の件もいい加減な感情論で話を進めるべきではなく、慎重な議論が必要となるのは間違いありません。

当たり前ですが、「タミフルを使うようになって異常行動の発生率が変わったのかどうか」という点をまず調べてみるべきです。
製造元の薬品会社によると、海外での報告ではタミフルを使用した群としなかった群との比較では、前者の方が異常行動がむしろ少なかった、という報告もあるようなのです。ただこれは手前味噌かもしれないという見方も否定できませんから、公平な第三者による分析もやはり必要でしょう。

ここまで事が大きくなった以上、インフルエンザの患者さんに関しては、
ワクチン接種の有無・患者の普段の性格・発熱から受診までの時間・ウィルスの型・脱水の有無・発熱の程度・抗インフルエンザ薬投与の有無・併用薬の内容(特に解熱剤の有無)・異常行動の有無・インフルエンザ脳症等合併症の有無・時間経過の分析
等の情報を広く集める仕組みを作るべきです。
こうした分析に最も適している場所は、全世界でのタミフル使用量の7割程を占める日本である事は言うまでもないでしょう。


そうした詳細な分析を行った上で・・・

もし「差がない」か、あるいは「むしろタミフルを使った方が異常行動が少ない」といった結果が出るようなら・・・
タミフルは無罪だと言っていいでしょう。「異常行動は押さえきれないけれど、タミフルって良い薬だね」という結論になると思います。

ではもし「タミフルを使った場合の方がやはり異常行動が多い・異常行動を促進する事が証明された」という結果が出た場合には・・・
どう考えるべきでしょうか?


私にはそれでも、タミフルという薬を全否定する理由にはならないと思えます。
タミフルに限りませんが、もともと「全く副作用のない薬」という物は存在しません。むしろ有用な薬ほど、身体に対する影響力が大きい分、副作用も出やすい傾向があります。副作用があるなら、それに注意を払いつつうまく使う、というのが智慧ある者のやり方ではないでしょうか。

インフルエンザという病気は、時に死に繋がる事もある病気です。1918年の「スペインかぜ」の時には、日本で35〜40万人が亡くなったという過去があるのです。いつまた新型インフルエンザが広がるかも解らないというこの時代に、薬の利点を見つめようとせず欠点ばかり論おうとするのは、愚かとしか言いようがありません。
東南アジアで新型インフルエンザに罹患した人の致死率は6割にも及ぶそうです。もし仮に、タミフルが本当に異常行動を促進するとして、自分の子供が新型インフルエンザに罹った場合、治療の甲斐無く命を落とすよりは、二日くらい厳重監視しながらタミフルを使う事で生存率を上げられるのなら、その方が良くないですか?

人間と自然との間には、常に闘いがあるのです。それを忘れて綺麗事を言っていても始まりません。インフルエンザと戦わなくても良いよ、というのであれば、その内新型インフルエンザのパンデミーが起こって数億人が死ぬ事になります。
我々にとっての『有用な武器』の特性を理解し、それをうまく使いこなす、という発想が必要でしょう。

1980年代の日本で、インフルエンザワクチンの危険性と有効性を疑う声が強まりました。ワクチンの利点と欠点がきちんと評価されずに、ワクチン接種への世間の風当たりが強くなり、ついに学童への集団接種が中止されるに至りました。
しかし世界的な流れは逆で、インフルエンザワクチンの接種は評価が高まり諸外国で広まっていきました。そして近年遅ればせながら日本でもまたワクチン接種が増えつつある、という喜劇が演じられているのです。
今回また同じ過ちを繰り替えしたのでは、愚か者のそしりを免れ得ません。

様々なデータを集めた上で、「タミフルを使用するのとしないのと、どちらがメリットが多いのか」という議論を国民レベルで行わなければならないでしょう。


ただ、今回の騒ぎをきっかけとして、「タミフルのより良い使い方を検討する」というのは悪くないです。以前からある抗インフルエンザウィルス薬「シンメトレル」(インフルエンザのAにしか効かない)は、頻用されたあげくにウィルスの方に耐性がついてしまって現在はかなり効きが悪くなっている、という事はよく知られています。タミフル耐性のウィルスも増えつつある事が報告されてきていますから、いつか必ず来る新型インフルエンザのパンデミーに備え、抗インフルエンザ薬の使用法のきちんとしたガイドラインを作る、良い機会でもあるでしょう。



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