耳鼻咽喉科 アレルギー科 清水おかべクリニック 平成16年10月1日開設
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清水おかべクリニック
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適正な治療とは
最近ニュースで、悪質リフォーム業者の話題を良く耳にします。
判断力の衰えた高齢者の方などを標的に、言葉巧みに近づいて「あなたの家はここが悪い」「ここを治しておかないと、あとで大変な事になる」と持ちかけ、過剰な家の手直しを施したあげく、高い施工費を請求する・・・。
弱者を手玉に取る悪徳商法が明るみに出た訳ですが、まだまだ氷山の一角に過ぎないのでしょうし、こうした悪徳業者の摘発・撲滅は一筋縄では行かないのだろうな、と嫌な気持ちになります。
聞く所に寄ると、被害者の方の一部には、未だに自分が被害にあったと思っておらず、業者に感謝の念を持ち続けている方もいるとか。
業者のモラルが問われます。

専門知識のあるプロが、知識が少ないが故に正確な判断を下しにくい素人を導くという図式が、一つ間違えば強者が弱者から搾取を行う不正行為に繋がりかねない、という事を如実に示した例と言えるでしょう。


医療に携わる身として、翻って日本の医療業界はどうなのだろうか、と考えてしまいます。
医師は医療のプロフェッショナル。それなりの医学知識を持っている事になってます。その対象となる患者さんは、基本的には医学的知識の少ない人が多数を占めます。見ようによっては強者と弱者の関係と言えなくもありません。


一つ、ちょっとした想像をしてみました。

『風邪』という病気があります。ウイルスによる鼻、副鼻腔、のど、上部気道の粘膜の感染症。 誰もが知っている当たり前の病気です。
もしこんな医師がいたとしたら、どうでしょう。

医師A:「風邪は『万病の元』と言われ、命を落とす事もある重大な病気だ。悪化させてはならない。風邪の患者さんは全て入院させて、肺炎予防の抗生剤と栄養補給の点滴をし、インターフェロン(抗ウィルス作用がある・高価)の注射をすべきだ」

そんな話を聞いたらおそらく誰もが、「それはやり過ぎだろう」と思うのではないでしょうか。
医師Aを、「高額の医療報酬を受け取ろうと画策する悪徳医師ではないか」と勘ぐる人もいるかもしれません。

風邪を一回もひいた事のない人などまずいないでしょう。大抵の人が年に数回は風邪に罹患します。そうした時、なるべく過労を避け家で休養を取るようにし、市販の風邪薬を飲んだり医療機関で処方されたお薬を飲んだりする事で、ほとんどの場合数日で治ってしまうのは、皆さん御存じの通りです。

希に風邪がこじれてしまい、大病に至る場合もあります。タチの悪いインフルエンザで亡くなる方も毎年複数いらっしゃいます。他の病気や高齢などで体力の落ちている人が、風邪から肺炎になって命を落とされる、という場合も残念ながらあるでしょう。そういった重症に至りそうな患者さんに対しては、入院を始めとする手厚い治療が必要になる事ももちろんあります。

しかし、風邪をひいてそのような重篤な状態になる人の割合はおそらく10人に1人もいないのではないでしょうか。癌のような、一度罹患したらしっかりとした治療を行わないと命取りになるような重大な疾病であれば、最初から強力な治療を行う必要があるでしょうが、風邪のように大部分が保存的に見ていけば治ってしまうような病気に対して、最初から濃厚な治療を行う必要は無いでしょう。
先の想像上の医師Aの様に、極一部の重症化した患者さんにのみ施すような高度治療を、全ての患者さんに対して行うような事は、やはり過剰医療と言うべきだと思います。


「何をそんな当たり前の事をクドクドと」と思われるかもしれませんが、この例では「風邪」という、誰もが知っている当たり前の病気を挙げて話をしているので解りやすいのです。
これが風邪などではなく普段あまり馴染みのない名前の病気になると、誰もが適正な判断を下せる訳ではありません。勢い、プロである医師の意見が重要度を増します。
そんな時、患者さんの主治医が医師Aの様な人であれば、必要以上の過剰な治療を受けるケースもあり得る訳です。しかし、医療というのはタダではありません。

日本には世界保健機関(WHO)をして「コストパフォーマンスのいい、健康達成度では世界一の医療」と言わしめる位の医療制度があります。この費用対効果の良さの多くが国民皆保険制度に寄っている事は明らかです。
ですがこの保険制度の充実により「医療費の支払いで凄く困る」という事が少ない為か、一般の人が「過剰な治療による医療費の高額化」を社会問題として論ずる事はあまりありません。
現在、日本国民全体の医療費の上昇傾向は止まる気配を見せず、このままではいつか現行の医療保険制度が破綻するのは目に見えています。個人負担が少ないからまあ良いか、などとは言っていられなくなる日が来るのはそう先の話ではないでしょう。
現状の恵まれた国民皆保険制度を長続きさせる為にも、やはり必要のない過剰医療という物は、抑制するべきです。
治療の原則はケース・バイ・ケース。軽い病気には軽い治療で済ますべきです。そして「これは重症化しそうだ」と思われるケースを敏感に嗅ぎ分けて、そうした患者さんには手厚い治療を施す。そうした診断力を養う事が、良い医師の条件の一つだと思います。


医師のモラルが問われます。問われるべきだと思います。
私も日々の診療において、「この患者さんにとって適正な治療は、どの程度か」という問いかけを、忘れないようにして行きたいと思います。




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