耳鼻咽喉科 アレルギー科 清水おかべクリニック 平成16年10月1日開設
トップ | ごあいさつ | 医院案内 | 時間,地図 | おしらせ | 予約 | / / のど / その他 | 日記 | リンク 
清水おかべクリニック
+ 診療日記 +
 * トップ
 * ごあいさつ
 * 医院案内
 * 診療時間,地図
 * おしらせ
 * 診療予約
 * 耳鼻科まめ知識
       耳の話
       鼻の話
       のどの話
       その他の話
 * 診療日記
 * リンク 
 


























































<清水おかべクリニック>
<トップへ>

死期
      この文章は平成15年10月11日に、友人の運営している
      ホームページに投稿した物です。(一部修正)



平成15年10月10日、最後の日本産トキ「キン」が亡くなった。これでニッポニア・ニッポンは、少なくとも日本特有の鳥としては、絶滅した訳だ。推定年齢36歳、人間に換算すると100歳位になるらしい。死因は脳挫傷。飛び上がってケージの扉にぶつかったのではと見られている。
飼育係の人によると、「最近はほとんど飛ぶ事など無かったのに、どうして・・・」とのこと。


時々新聞の紙面を賑わす話題に、安楽死事件がある。先のない患者さんに対し、医師が独断ないし御家族の依頼を受けてカリウム等を注射する、というやつだ。
しかし、病院の現場では逆のパターンが見られる場合もある、という話はあまり報道される事はない。

75歳の男性。下咽頭癌の治療を行い、一旦治癒した。翌年頚部に再発したが、小さな物であった為、局所麻酔の小手術にて癌は取りきる事が出来た。

退院して1週間、御家族から電話が入った。「おじいさんが急に食事を取らなくなった」と。心配する御家族は「このまま食べなければおじいさんは死んでしまうんですよ!」と緊迫した声を出した。数日後来院した患者さんを診察。特に癌の再発や肺炎などの併発がある訳ではない。しかし食事が進まない。御家族の強い要望もあって入院となった。取り敢えず鼻からチューブを胃まで通して流動食を入れるという「経管栄養」を始めた。しかし同日夜、患者さんはこの管を自己抜去する。

以後、イタチごっことなった。点滴の管を入れても鼻からチューブを入れても、その日のうちか翌日には抜いてしまう。本人にいくら言い聞かせても数時間後には隙を見て抜いてしまうのだ。内科で診てもらっても特に異常が見つかる訳でもなく、「痴呆であろう」という事になった。自己抜去を防ぐ為には患者さんの手を拘束するのが一番手っ取り早いのだが、これは患者さんの尊厳を損なうことになるし、家に帰った後に続ける事が出来ない。

「食べられればまた体力が付いて元気になると思うんですけどねえ」と御家族は改善策を強く希望する。祖父思いの暖かい親族である。消化器科のドクターに相談し、「胃瘻」の造設をお願いする事にした。これは胃カメラを用いて胃壁から腹部の皮膚にかけて穴をあけ縫い合わせる事で、外から直接胃に流動食を入れられるようにする、という手法だ。

この手はあえなく失敗する。患者さんが怒って胃カメラを飲み込もうとしなかったのだ。御家族は泣いた。今度は別の手で行ってみましょうと伝え、外科のドクターに相談する。胃カメラではなく、外科手術によって「胃瘻」を増設する事になった。その日まで御家族にも付き添ってもらい、患者さんが点滴を自己抜去しないか見張ってゆく事となる。

手術の数日前の夜。患者さん自身が呼んでいると言う事で病室に赴いた。どうやら御家族も呼ばれたようで揃っている。患者さんがしゃべり出す。
「もうこれで終わりでいい。点滴も止めてもらいたい。そして夜の12時丁度に、心臓を止める薬を入れて欲しい。」と。
御家族が「おじいさん、そんな事考えなくていいのよ。第一、先生はそんなお薬使えないですよ。」と言うと、患者さんは「そうか、それじゃしょうがないな」とあっさりと諦めた。それでその日は終わった。

数日後、外科手術により胃瘻が作られ、まともな栄養がようやく体に入り始めた。しかし、時既に遅しで患者さんの衰弱は収まる気配がない。傾眠から昏睡へと推移し、1週間後、お亡くなりになった。
結局特別な病気は最後まで見つからず、死因は「老衰」という事であったろうと思う。


人間は、生き物は「死期」というものが分かるのだろうか。
どのような死に方を、生き方を望むものなのだろうか。
この患者さんに行った「治療」は、
果たしてこの人にとって良いものだったのだろうか。


羽ばたいたあげくに脳挫傷で死亡したキン。
「最後くらいは鳥らしく」と思ったのではと想像する私を、
あなたは笑うだろうか。


<診療日記に戻る>